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コラム

「どうする? 投資家との建設的な対話。」
トップの発信に見るIRの方向性

2015/05/22

野村インベスター・リレーションズ
シニアコンサルタント/クリエイティブディレクター 近藤 正哉

「信用、信頼に裏付けされた企業と投資家との新しい関係をつくりたい」

2015年3月29日、トヨタ自動車が個人投資家に向けて開催したIRイベント「TOYOTA Investors Meeting2015」で発信された、豊田章男社長の言葉です。
国内外含め多くの新聞・雑誌等のメディアで取り上げられたため、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。筆者もプランナーとして、イベントの企画段階や現場の運営に携わったのですが、約3,500名の個人投資家や大学生を集めて行われた、1社単独としては日本、いや世界を見渡してみてもこれまでに前例のない、空前の規模で開催された個人投資家説明会でした。加えてU-Streamやニコニコ生放送の同時中継も行われており、規模、対象者数のいずれにおいても、これまでのIR説明会の枠組みを大きく超えるものであったことは間違いありません。

投資家との対話に向けた新たなチャレンジ

イベントの詳細は上記特設ウェブサイトのイベントレポートに譲りますが、このタイミングで、日本を代表する企業であるトヨタ自動車が個人投資家に向けた新たな動きを見せているのにはどういう背景があるのでしょうか。これは、JPX日経インデックス400の導入、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの策定といった近年の市場の大きな変革の動きと決して無関係ではありません。

伊藤レポートでも語られるように、今後「企業と投資家の対話」が、より重視されるようになるということは、衆目の一致するところであると思います。トヨタ自動車にしても、以前から事業報告書(株主通信)、アニュアルレポート、サステナビリティーレポート、コーポレートガバナンス報告書をはじめ、詳細な概況資料など、あらゆる情報開示に積極的に取り組んできた企業です。端から見れば、あるいは従来のIRの常識からすると、充分すぎるほどの情報開示をしていると言えます。
ただ、「持続的な企業価値の創造に向けた企業と投資家との対話」が重要性を増すなかで、既存のIRでは伝えきれないものがある、そう考えていたからこそのイベントであり、新たなIR手法へのチャレンジでもありました。

企業の覚悟を示すことができるか

個人投資家にとっての「投資」には、単なる「運用」を超えた意味もあるのではないかと思います。それは「企業への応援」です。人々の暮らしに根差し、社会にとって必要な事業を行っている良い企業を見つけ出し、応援することでリターンを得る。青臭い理想論に聞こえるかもしれませんが、実はその理想論を徹底して突き詰め、企業と投資家の新しい関係づくりを本気で目指したものこそ、このイベントだったのです。

では、個人投資家に「この企業を応援しよう」と思ってもらうために、企業として伝えるべきものは何でしょうか? 成長戦略? その通りですね。でも、もっと大事なものがあります。それは、その戦略を採るに至った「企業の理念」であり、戦略の「確かさ」であり、「根拠」。そして、戦略を進める、目標を達成するための「覚悟」です。

「覚悟」の示し方といっても、色々な手法はあると思います。
トヨタ自動車の場合、豊田章男社長のプレゼンテーションは、業績等の数字には一切触れることなく、とにかくグローバルトヨタを束ねる、責任者としての思いと覚悟を伝えるものでした。

覚悟ということで言えば、ソフトバンクの孫社長も同様かもしれません。一般の方でも参加可能な株主総会など、とにかくオープンであることにこだわっています。社長自らが「やりましょう」と、ステークホルダーに対してさまざまな「約束」をし、実行し、責任を取る覚悟を示しています。

通常の投資家向け説明会においても、トップ自ら覚悟を示すことで、高い評価を得ている例も多々あります。例えばLIXILグループの藤森社長もそのひとりでしょう。明解な語り口から、極めて論理的に組み立てられた説明を行うとともに、数値目標やその達成に対する強い意志、自信を示す。聞いているだけで「この人なら任せて大丈夫だ」という信頼感を持ってしまうプレゼンテーションを行っています。

また、プレゼンテーションではありませんが、トップ自らが広告塔にもなり、企業の意図を体現している例もあります。ライフネット生命保険の出口会長、岩瀬社長などは「保険をわかりやすく、シンプルに」という企業としての考え方通り、自ら前面に立ってお客さまと向き合い、文字通り体を張ってさまざまなプロモーション活動を行っています。

他にも、ファーストリテイリングの柳井社長、楽天の三木谷社長など、トップ自ら積極的に発信力を高めている例は枚挙にいとまがありません。

経営トップの姿勢を見せることでコミュニケーションが変わる

もちろん、トップを前面に立たせるとなると、クリアすべき問題も多々あります。広報・IRの担当者とトップとの間に厚い信頼関係がなければ成り立ちませんし、トップのキャラクターの問題もあります。経営陣や各部門との調整を含め、コミュニケーションの質自体を大きく変える必要もあるかもしれません。

いずれにしても、経営トップ自らが前面に立ち、自社のビジョンや決意を明解に述べている企業ほど、投資家の認知度および信頼度、そして評価が高くなりやすいということは異論のないところでしょう。
「トップは最高の広報パーソン」と言われる通り、株主・投資家に対してはもちろん、自社の顧客、取引先、そして自社の社員に至るすべてのステークホルダーに対し、トップの言葉が与える影響力は非常に大きいと言えます。

「企業と投資家の対話」の促進に向けて、企業には、より高い発信力が求められるようになっていくのは間違いありません。いや、もうすでにそうなっているかもしれません。
前出のトヨタ自動車の場合はイベントであり、トップの覚悟を示すプレゼンテーションでした。その現場に立ち会い、私自身、企業と投資家との関係が新たなステージに向かいつつある、そう確信しました。投資家に向けたイベントだけが解答として正しいわけではないでしょう。業種、規模、それぞれの企業の特性に合った対話の在り方が必ずあるはずです。
株主・投資家を含めたステークホルダーに向けて、何をどう伝えていくべきか。私たちはいま一度考えるべき岐路に立たされているのではないでしょうか。

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