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コラム

長期投資家との対話のきっかけを作る「統合報告」

2015/03/10

野村インベスター・リレーションズ
シニアコンサルタント 佐原 珠美

IIRCから統合報告のフレームワークが公表されて1年が過ぎました。
この間、日本の資本市場に一石を投じる動きがありました。日本版スチュワードシップ・コードの制定、伊藤レポートの公表、そしてコーポレートガバナンス・コードの公表。アベノミクスの日本再興戦略の一環であるこれらの動きは、企業と投資家との関係を改善するものとして期待されています。
これらのキーワードは、「長期的な企業価値の向上」「長期投資家との高質な対話」「ショートターミズム(短期主義)の是正」。これは、統合報告のコンセプトを通じて世界の資本市場を是正していこうとするIIRCの方向性と同じです。

伊藤レポートの中でも、企業全体を俯瞰する「統合思考」をもって情報開示するのが望ましく、そうした「統合報告」での情報開示が投資家と企業の対話の一端を担う、と示されています。これまで、「統合報告」という概念は海外から来たもの、と見ていたり、取り組むことが大変なため躊躇していた企業の中でも、この一連の動きを受けて統合報告の作成を真剣に考え出した企業も少なくありません。
2014年に統合報告を制作した企業数は140社以上と言われており、2013年の90社からさらに増えたことになりますが、日本の資本市場を巡るこうした動きを受け、統合報告の作成に踏み切る企業の数は今後も増えていくものと考えられます。

投資家との対話における課題と、統合報告のあり方

さて、中長期的な持続可能性について企業と投資家の対話が重視されるようになるなかで、こんな課題を抱えている企業様もいるでしょう。
「初めての投資家に当社の事業がなかなか伝わらない。」「認知イメージとギャップがある。」

こうした課題に対し、統合報告での情報提供を通じて解決しようとしている企業様の例をご紹介します。ある消費財メーカーのケースです。
同社は消費者に近い製造業としてはよく知られていますが、実はもう一つのコア事業として物流事業にも携わっており、国内のみならず海外でもトップクラスのシェアを有していることについてはあまり知られていませんでした。また、市場展開も、一般的に抱かれているイメージとは異なり、生活者向けの製品よりB to Bの割合が大きくなっていました。

従来のアニュアルレポートでは、そうしたそもそも論は当然のこととしてあまり深く触れることがありませんでした。しかし、各事業が、どのような経緯で生まれどのように成長してきたか、各事業の取引先や市場、競争優位性についてビジネスモデルを使いながら整理して説明することにより、初めて同社を知る投資家がより明確に事業について理解できる内容となりました。
それと同時に、既存の投資家との対話のきっかけにもなり、さらに知りたい情報にフォーカスしながら年々内容を進化させています。

統合報告が投資家との新たな対話を生み出す

投資家に対して中長期視点から企業の持続可能性を伝えるためには、まず企業がどんな事業活動をしているか、他社と差別化できる強みは何か、競争優位性や独自性がどこにあるのか、を十分に理解いただく必要があります。こういった情報は、企業側からみるとごくごく初歩的な情報であるため、わざわざアニュアルレポートの紙面を割いて掲載しようとは考えてこなかった、というケースが多いでしょう。
しかし、これをIIRCのフレームワークにある「ビジネスモデル」や「資本」の概念を使い、統合的観点から包括的に事業活動について伝えることにより、その企業の独自性や競争優位性、また事業活動を行っている市場や使用する経営資源を浮き彫りにすることができます。これは投資家にとっても有用な情報源となり、新たな対話を生み出すきっかけとなりうるのです。

このように、「対話」への重要性が高まっている中で、長期投資家との対話においては様々な課題があることでしょう。
それら課題を解決し、長期投資家との対話・エンゲージメントを深めていくきっかけの一つとなりうるのが統合報告です。統合報告の動向は、今後も注目されていくでしょう。

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