1. HOME > 
  2. コラム > 
  3. 企業の価値創造プロセスを伝える「統合報告」とは 2)日本の統合報告の現状と策定のポイント

コラム

企業の価値創造プロセスを伝える「統合報告」とは
2)日本の統合報告の現状と策定のポイント

2014/05/09

野村インベスター・リレーションズ
シニアコンサルタント 佐原 珠美

前回は、統合報告が生まれた背景についてご説明しました。
(連載第1回:「非財務情報の重要性の高まりと統合報告の背景」)

国際統合報告審議会(IIRC)が統合報告のフレームワークVer. 1を公表して以来、日本でも統合報告が一層注目を浴びるようになり、アニュアルレポート、CSRレポート発行企業を中心に、統合版への模索が始まっています。
今回は、日本の統合報告の現状・課題と、野村IRが考える統合報告の策定のポイントについてご説明します。

日本の統合報告書の現状

統合報告書の発行企業数はここ数年急増し、今年は100社を超えるのではないかと考えられています。ただしそのスタイルは、

・アニュアルレポートとCSRレポートをそのまま合わせた「合本」タイプ
・IIRCのフレームワークの一部を取り入れたタイプ
・IIRCのフレームワークに準拠したタイプ

などと様々です。

統合報告書を発行している企業様ツ黴€に伺うと、統合報告書を導入するに至った最大のきっかけは、「アニュアルレポートとCSRレポートを1冊にすることにより、コストや工数を削減したかった」というものでした。
またその用途は幅広く、「一冊で企業について全てわかるように、できるだけ情報を提供したい」「せっかく作るのだから、投資家だけではなくマルチステークホルダー向けのものとしたい」「社員の研修用にも使えるものにしたい」などが挙げられます。

しかし、いろいろな思いがあるなかで発行しながらも、「統合版としてはまだまだ…」と考えていらっしゃる企業様がほとんどです。金融市場の短期化志向を是正したい、というIIRCの考えはもっともであり、中長期的な視点を持つ投資家に選んでいただきたいけれど、自分たちの報告書はそこまで至っていない、というのが今の統合報告の実情です。

企業様が「統合版としてはまだまだ…」と考える背景には、主に以下の3つの課題があります。

1.開示する情報量が膨大になり、企業側の負担が大きい
2.ビジネスモデルの表し方や非財務情報の取り入れ方がわからない
3.投資家が本当に求めている情報を提供できているのかが分からない

統合報告策定のポイント

上記の課題を解決するためには、次に挙げる方針を軸に統合報告を策定するべきではないかと私たちは考えます。

1.読み手を定め、重要な情報を簡潔に伝える
2.非財務情報を含めた戦略をストーリーで伝える
3.統合報告を使って投資家とコミュニケーションする

この3点を具体的にご説明します。

1.読み手を定め、重要な情報を簡潔に伝える

統合報告書の本来の目的は、企業の価値創造のプロセスのうち重要な情報のみを簡潔に伝えることにあります。IIRCのポール・ドラックマン事務局長も、統合報告書は、20ページから50ページ程度であることが望ましい、と話しています。投資家が移動中にも手軽に持ち運べるような、またはタブレット端末で簡単に読めるものであることが理想的だというのです。

「これまで伝えてきた情報は今後も伝えていかなくては」「他社も開示している情報は伝えたい」という思いが企業様にはあると思います。しかし初めて企業を知ろうとする読み手が、100ページもある冊子を読んでも手っ取り早く企業を理解することは難しく、これでは統合報告書の本来の目的を果たしているとは言えません。

そのため、伝えたい情報全てを1冊にまとめるのではなく、統合報告書をプライマリーな報告書と位置づけて本当に重要な情報のみを掲載し、その他の詳細な情報は、ウェブサイトや冊子などへ誘導するという方法がよいと考えます。

それでは、膨大な情報の中から重要な情報をどのように選べばよいのでしょうか。

そのためにはまずは読み手を定めることが重要です。
統合報告書の読み手としては、(1)投資家、(2)その他のステークホルダー(取引先、顧客、従業員など利害関係者)、が考えられます。しかし同じ企業の価値創造プロセスを伝えるにしても、読み手が異なれば伝える内容の重要性や伝え方も異なります。

例えば読み手が(1)投資家の場合、企業の成長が長期にわたり持続可能であることを理解してもらう情報を、「目標を達成するための取り組みについて…」などと、企業様主体の表現で伝えます。一方読み手が(2)その他のステークホルダーである場合は、社会や環境の持続可能性に対する企業様の貢献を理解してもらう情報を、「社会のために」「環境のために」などと、社会・環境が主体の表現で伝えます。つまり両方の読み手に同時にアプローチしようとすると、内容面でも表現面でも焦点が絞りきれなくなるのです。

企業様それぞれの事情はあるとは思いますが、私たち野村IRは、投資家を読み手とした統合報告が理想的であると考えます。
企業が持続的に成長していくためには、中長期的な視点を持つ投資家に選んでいただき、財務資本提供者となっていただく、それが強いては資本市場の持続可能性にもつながり、統合報告書の本来の目的を果たすことができるためです。

2.非財務情報を含めた戦略をストーリーで伝える

それでは、投資家に向けて発信する重要な情報とは何でしょうか。第1回目でご説明した通り、企業が長期にわたって価値をどのように創造していくか、という戦略を示すためには、以下の情報が必要となります。

  • ・「企業はどのような事業を行っているか」
  • ・「中長期的に価値を維持、創造するためのビジネスモデルはどのようなものか」
  • ・「目指す姿はどのようなものか」
  • ・「今後事業環境はどのように変化し、どのようなリスクや機会に遭遇する可能性があるか」
  • ・「リスクや機会に対応するために、どのような戦略を策定し、達成するためにどう資源配分を計画しているか」
  • ・「目指す姿になるために企業活動を支える体制は整っているのか」

これらの情報を、財務・非財務の両面からいかに簡潔に説明できるか、というのが統合報告策定において重要なポイントであり、また多くの企業様が頭を悩ませているところかと思います。
今回は、この「非財務情報」について少し掘り下げてご説明します。

-「非財務情報」をどのように報告するか

まず、統合報告でいう「非財務情報」とは、IIRCによるとビジネスモデルに取り込む6つの資本のうち財務以外の資本(人的、製造、知的、社会、自然)であると説明しています。

次に、この非財務情報の報告の仕方については、主に以下の3点が考えられます。

・戦略に直接関連する非財務情報を示す

統合報告の中核である価値創造プロセス戦略。そこに直接紐づく非財務情報を説明します。例えば、ある工場の存在意義は、最終製品を作るメーカーに対して、その工場しかつくれない部品であるとすれば、それを支える技術や人材、ノウハウ(知的所有権)を非財務情報として伝えます。

・事業の収益性と社会の課題解決が両立している取り組みを示す

「社会課題への取り組みによる社会的価値の創造」と、「企業の競争力の向上」を両立させる、CSV (Creating Shared Value:共通価値の創造)の視点から説明します。例えばリサイクルされた原材料からつくられた製品はそれ自体が収益を上げながら社会や環境に貢献していることになります。また、その部品工場が使用する水やCO2削減に毎年取り組んでいるとすれば、コストを下げる要因にもなり、当然地球環境に配慮してもいるということになります。ツ黴€

・戦略を支える上で重要な体制や取り組みを示す

コーポレート・ガバナンスに加え、中長期的に事業を持続させていく上で必要な体制や取組みについて説明します。例えば必要な人材が永続的に採用できるか、原材料の持続的な調達、BCP含めたリスクマネジメントなどが該当します。

これらの点を踏まえて、戦略に紐づけながら非財務情報を報告することが重要です。

-「ストーリー」で読み手の心に訴える

このような様々な情報を報告する上で気をつけなくてはいけないのは、読み手にいかに理解してもらうか、そして読み手の心にいかに訴えるか、ということです。
読み手に理解してもらうためには、「自社のビジネスモデルの強み」や「持続的な成長の確からしさ」を論理的に伝えることが必要です。また、読み手の共感を得て中長期的に応援してもらうためには、単なる情報や重要指標(KPI)の羅列ではなく、メッセージ性を持ったストーリーを作り上げるなど、創造性を持って伝えることが必要です。

こうしたプロセスは簡単なことではありません。企業について十分に理解した上で必要な情報のみを抽出し、読み手が理解しやすく、しかも読み手の心に響くようなメッセージ性を持ったストーリーを作り上げる表現者が必要となってきます。

3.統合報告を使って投資家とコミュニケーションする

統合報告書を作成した企業様に「投資家の方々の反応はいかがでしたか」と伺うと、「実はよくわからないんだよね」「読んではいると思うけど、あまり反応がなくってね」という答えが返ってきます。投資家のニーズはさておき、知らせたい情報を発信し続ける、という企業様が多いようです。

しかし作るのが統合報告のゴールではありません。
せっかく価値創造プロセスを統合報告で示せたとしても、「多くの人に読んでもらうこと」に注意が払われていなければ、目的を達成したことになりません。

では、多くの人に読んでもらうにはどうしたらよいでしょうか。
例えば、冊子を積極的に使って説明する、PDF化、オンライン化したものをウェブサイトの最も目立つところに置く、など、統合報告の情報を届ける「攻め」の姿勢も必要です。さらに、アンケートなどによるフィードバックから統合報告書を見直し、次年度版に反映することにより、徐々に読み手のニーズに合った情報開示へと進化させていくことも必要です。

統合報告を使ったアプローチで、投資家との戦略的なコミュニケ―ションが可能になるのです。

まとめ

本コラムでご紹介した≪統合報告の策定のポイント≫について、まとめてご紹介します。

≪統合報告の策定のポイント≫
・統合報告では、重要な情報のみを掲載。詳細は他媒体へ誘導する。
・読み手を中長期的な視点を持つ投資家と定める。
・戦略(価値創造のプロセス)に焦点を当てた内容とする。
・情報を関連づけて論理的に伝える。メッセージ性を持ったストーリーで読み手の心に訴える。
・作って終わりではなく、積極的に投資家に届けていく。
・フィードバックを得て毎年改善を図り、より投資家のニーズに即したものに進化させる。

本連載コラム【企業の価値創造プロセスを伝える「統合報告」とは】では、2回に分けて統合報告の重要性が高まった背景から策定のポイントまでご紹介いたしました。

コラム内でご紹介した通り、日本の統合報告書の多くはまだ発展途上の段階にあります。 しかし一方で、統合報告に注力して独自のビジネスモデルや中長期の戦略を公表した結果、社内外で企業に対する理解がより深まった、という事例も出てきています。

「統合版としてはまだまだ…」とお考えの企業様は、改めて統合報告のあり方を見直していくことが必要なのではないでしょうか。

ツ黴€

野村IRでは、統合報告について引き続きコラムなどで定期的に情報発信を行っていきたいと考えています。

ご意見・お問い合わせはこちらから

ご意見・お問い合わせはこちらから

メールマガジン登録はこちらから