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コラム

企業と投資家の建設的な対話
4)ROE向上に向けた、投資家との対話の変化

2014/12/12

野村インベスター・リレーションズ
業務企画部 濱地 保則

これまで3回にわたり、安部内閣の進める「日本再興戦略」、上場企業の価値向上と持続的成長をテーマにした金融庁・経済産業省のプロジェクト概要を紹介してきました。
今回はこれら一連のプロジェクトの動きを受け、投資家との対話がどのように変わってくるのかに焦点を当てたいと思います。

2014年、日本再興に向けた一連の動きが始動

今回の各省庁が主導するプロジェクトに先立ち、これを推し進めるための環境整備ともいえる様々な動きがありました。
今年1月、投資家が重視するROEを選定要件とする「JPX日経インデックス400」の算出を東証が開始しました。このインデックスは日本企業のベストプラクティスとして海外の投資家から注目を集め、国内でも年金資産を運用する日本最大の投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が新たなベンチマークの1つとして本指数を採用することを発表したため、内外の投資家だけでなく企業からも本指数への注目度が一気に高まりました。
また、1月からNISA制度がスタートし、個人の長期資金が株式市場に流入を始め、先のGPIFが運用資産の株式への配分比率を高めることを発表するなど、株式市場に資金を流入させる諸決定がされたことも今回のプロジェクトと無関係とは思えません。

<PBR推移比較(単純平均)>

参照:株式会社Quick提供のデータ

プロジェクトの浸透には機関投資家の果たす役割が重要

これらの動きに続く各省庁主導のプロジェクトは、アプローチ方法もこれまでとは異なるもので、今回の取り組みに対する本気度が伝わってきます。
一連のプロジェクトは、まず、「日本版スチュワードシップ・コード」の受入を機関投資家に求めることから始めました。本コードを受け入れた機関投資家は企業に対して対話を働きかけ、株主総会議案への検討結果を公表するなどの行動が求められます。また、GPIFが本コードを受入表明していることを運用委託先の条件としたことにより、機関投資家がコードを受入れて行動することを投資判断のフローに組み込まねばならない状況を作りました。
更に、9月、金融庁はコード受入を表明した機関投資家にも念押ししました。企業との対話は面談回数など形式的な基準ではなく、実効性のあるいわゆる「建設的な対話」を行うことを求めるというメッセージでした。これまで金融庁が機関投資家にこのようなメッセージを発信した記憶はなく、今回の改革では機関投資家の役割が非常に重要と考えているためと思われます。
また、プロジェクトは海外の機関を巻き込んで進められているという点でもこれまでと異なります。これには海外機関投資家の声を積極的に活用しプロジェクトを推進するという意図と、世界への日本の宣言という面もあるのではないでしょうか。

ROEは経営の総合指標

「日本版スチュワードシップ・コード」と、来年の株主総会に向けて進められている「コーポレートガバナンス・コード」は車の両輪に例えられます。そこには機関投資家と企業が対話に向かうための原則が定められています。その両輪をつなぐ車軸が持続的な価値創造を目指す「伊藤レポート」であり、日本企業が取り組むべき方向を具体的に示した解説書といえるものではないかと思います。双方が対話を進めるためには共通の言語が必要です。「伊藤レポート」ではその共通の言語がROEという指標であり、ROEを高める経営が価値創造の方向であるということを示したのではないでしょうか。

これまでもROEという指標が新聞紙上に解説付きで登場することはありましたが、今年ほど経営指標としてROEが取り上げられることはありませんでした。(下図参照)
企業からすればROEは「投資家目線の指標」と捉えられるため、意識はするが経営指標としては使いづらい、時にはROEのために経営をしているのではないという声も耳にします。当社が行った調査でもROEを高めるという方向性は8割近くが同意するものの、8%という水準には抵抗があるとの反応が返ってきました。8%というROEの水準がやや独り歩きしている感じはありますが、投資家は必ずしもROEの絶対水準のみを重視しているわけではなく、経営の総合指標としてROEを見ているという方が正しいと思います。

<日経新聞朝刊記事中にROEが取り上げられた件数>

参照:『日経テレコン21』内記事

変化する投資家との対話

ROEを説明することは成長のための事業戦略を語ることそのものです。
ROEは売上高利益率と資産回転率、財務レバレッジに分解できます。成長のためには以下3つの取り組みが必要です。
 ・売上を拡大し、利益率と資産回転率を高める
 ・コスト構造を見直して利益率を改善する
 ・資産自体をスリム化して資産回転率を高める など

これらは通常に取り組む事業戦略そのものです。投資家が知りたいのは、それぞれについて「何を行うか」ではなく、「何故行い、どの様な価値が創造されるのか」ということであり、「いかに行うのか、期間と目標は」という価値創造のプロセスです。「何を行う」という発信だけでは恐らく対話には繋がりません。

対話は長期的な業績見通しの要素の説明が中心となり、投資家は対話の中から企業の長期の成長ストーリーを描いていくことになります。しかし、現実には各企業の置かれている事業環境や競争環境は異なり、また長期の期間をとれば経営環境が大きく変化することもあります。現在描くストーリーがそのままであり続けることはなく、環境変化に応じてストーリーを変換することも必要になります。環境変化に対してどの様にストーリーを転換していくかという基本的な考え方を説明しておくことも投資家との対話では必要になるものと考えられます。

PL項目以外にも対話の範囲は広がります。内部留保と投資計画、自社を取り巻くリスク要因、資産項目と資産効率、そしてそれを監視するガバナンス体制。これらについて投資家が理解できるよう説明することは結果的にROEを高める方向を示すということになるのではないでしょうか。

投資家が企業価値評価を行うための企業情報には「透明性」と「比較可能性」と「予見可能性」が必須条件と言われています。「伊藤レポート」の中で将来の持続的成長を実現するためには「経営力」が必要との指摘があります。会社の将来の姿を語ることが出来るのは経営トップであり、その実現に向けた経営者のリーダーシップや自信は投資家にとって最も重要な投資情報になります。今後、投資家が経営トップとの面談を希望する場面が増えることになりそうです。

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