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コラム

企業と投資家の建設的な対話
3)“責任ある機関投資家”の諸原則「日本版スチュワードシップ・コード」とは

2014/12/10

野村インベスター・リレーションズ
SRマネジメント部 太田 靖

2014年2月、金融庁は日本版スチュワードシップ・コードである「“責任ある機関投資家”の諸原則」を正式に制定しました。
スチュワードシップ(stewardship)を日本語に訳した場合、「受託者責任」という言葉が最もしっくり当てはまると思われます。従って「スチュワードシップ・コード」は“受託者責任を果たすための原則”となります。
では、日本国内の機関投資家にこれまで「受託者責任」は存在しなかったのか、というと決してそうではありません。この日本版スチュワードシップ・コードは、アベノミクスの「第三の矢」としての成長戦略を定める「日本再興戦略」において、
企業の持続的な成長を促す観点から、幅広い機関投資家が企業との建設的な対話を行い、適切に受託者責任を果たすための原則
を定めたものであり、従来の受託者責任から一歩も二歩も踏み込んだ内容となっています。
それでは、日本版スチュワードシップ・コードの内容について、解説してまいります。

日本版スチュワードシップ・コードの対象範囲と目的

日本版スチュワードシップ・コードの対象範囲となるのは、「日本株に投資している国内外の機関投資家」です。運用会社などの「資産運用者」だけでなく、保険会社・年金基金といった「資産保有者」や、議決権行使助言会社なども含まれており、ISS、Glass Lewisともに、本コードの受入れをすでに表明しています。
本コードは「市場での規律付け」を行う上での投資家としての責任、義務を明確化するものとしての位置付けであり、中長期的な視点から、投資家と企業との間で建設的で緊張感を持った関係を構築することが期待されています。

スチュワードシップ責任とは?

日本版スチュワードシップ・コードでは機関投資家が果たすべき「スチュワードシップ責任」を明確にした上で、これを果たすにあたって有用と考えられる7つの原則を定めています。本コードに法的拘束力はありませんが、機関投資家が本コードの趣旨に賛同し、受け入れる場合はその旨を公表することが求められています。 先述の“スチュワードシップ≒受託者責任”という訳に当てはめると、「スチュワードシップ責任」は「受託者責任責任」という直訳になってしまいますが、ここは「責任ある機関投資家が負うべき受託者責任」という解釈が正しいと思われます。
スチュワードシップ責任とは、機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話(エンゲージメント)」などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(最終受益者を含む)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任を意味します。

<エンゲージメントとは?>

「スチュワードシップ責任」の説明でエンゲージメントという表現が出てきていますが、これに関して詳細な記述はありません。一般的にエンゲージメント(engagement)とは、各企業と機関投資家との間で行われる、経営に関するさまざまな事項(経営戦略、財務戦略など)に関する個別の議論や提案のことを指すものと考えられます。

日本版スチュワードシップ・コードの7原則

日本版スチュワードシップ・コードにおいて、投資先企業の持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るべく定められた、7つの原則は以下のとおりです。

  1. (1)スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべき
  2. (2)スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべき
  3. (3)投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべき
  4. (4)投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の解決に努めるべき
  5. (5)議決権の行使を行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるべきでなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべき
  6. (6)議決権の行使を含め、スチュワードシップ責任をどのようにして果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対し定期的に報告を行うべき
  7. (7)投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべき

なお、各原則には、2~4項目からなる、具体的な「指針」も定義されています。

「原則主義」、「Comply or Explain」に基づく運用

日本版スチュワードシップ・コードは、「原則主義」(プリンシプルベース・アプローチ、Principle-based Approach)を採用しており、機関投資家がそれぞれ置かれている状況に応じて、異なった方法論でスチュワードシップ責任を適切に果たすことを求めています。“状況”とは規模の大小や、運用方針(長期/短期、アクティブ/パッシブ)などを指します。
また、本コードはコーポレートガバナンス・コードと同様にいわゆる「comply or explain (原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)」の手法が採られています。7原則の中に、個々の事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があった場合、「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則には対応しないことも可能な枠組みになっています。

本コードを受け入れる機関投資家は、受入れの表明、ならびにスチュワードシップ責任を果たすための取り組み方針などを自らのウェブサイトで開示することを求められています。2014年11月末日時点で受入れを表明している機関投資家175社については、全てウェブサイトにて開示を行っています。この取り組み方針を開示することにより、「企業訪問を何件行った」というような形式主義に陥らない対応が期待されています。

なお、本コードは実施状況などを踏まえ、3年毎を目処に内容が見直される予定です。

日本版スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家の内訳

2014年11月末日現在の受入れ状況は、下表のとおりです。

機関投資家の内訳 機関数 備考
信託銀行等 6 三菱UFJ信託、みずほ信託、りそな銀、三井住友信託、野村信託、農中信託
投信・投資顧問会社等 122 投資信託、企業年金、公的年金の運用を受託する主要な投信・投資顧問会社(一部海外の投信・投資顧問会社も含む)
生命保険会社 17 日本生命保険、第一生命保険など17社
損害保険会社 4 あいおいニッセイ同和損保、三井住友海上、損保ジャパン日本興亜、東京海上日動
年金基金等 19 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、国家公務員共済組合連合会、企業年金連合会など
議決権行使助言会社等 7 ISS、Glass Lewis、ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパンなど
175 (2014年11月末現在)

受入れ状況は3ヶ月に一度(2月末、5月末、8月末、11月末)更新され、金融庁のウェブサイトにて開示されます。

国内機関投資家における新たな動き

日本版スチュワードシップ・コードの受入れ表明に伴い、国内機関投資家の一部においては新たな動きも見られます。

(1)生命保険会社における、議決権行使の変化
2014年8月、第一生命保険が日本版スチュワードシップ・コードの受入れを表明し、7原則に関する詳細な方針を開示すると共に、信託銀行や投信投資顧問会社がすでに実施しているものと同様のスタイルで、株主総会における議決権行使結果を生命保険会社として初めて開示しました。一方、日本生命保険や住友生命保険、明治安田生命保険などは議決権行使基準(ガイドライン)をホームページ上で公開しています。
これまで、生命保険会社は「安定株主」として賛成票が確保できる株主と見なされていましたが、今後は総会前に議案の内容を説明するなど、信託銀行や投信・投資顧問会社と同様の対応が必要になってくるものと思われます。

(2)「エンゲージメントファンド」「バリューアップファンド」への注目
2014年9月、スパークス・アセット・マネジメントは、投資先企業との対話を通じて企業価値の向上を図る日本株公募投信(スパークス・日本株式スチュワードシップ・ファンド)の運用を開始すると発表しました。10月中旬から募集を開始(募集額上限:500億円)し、12月にも運用を開始する予定です。投資先企業にはスパークス社内の専門チームが、ROEなど資本効率の改善につながるような具体的な事業戦略や株主還元策を継続的に提案していくとのことです。

このような「エンゲージメントファンド」「バリューアップファンド」と呼ばれる運用戦略を採用している国内機関投資家としては、

・ニッセイアセットマネジメント
・東京海上アセットマネジメント
・いちごアセットマネジメント
・セイリュウ・アセット・マネジメント
(GPIFが採用したタイヨウ・パシフィック・パートナーズの運用戦略を提供)
・あすかアセットマネジメント
・みさき投資(あすかアセットマネジメントから独立した中神康議氏が設立)

などがあります。

このように、「日本版スチュワードシップ・コード」は、日本の上場株式に投資する機関投資家を対象とした行動規範です。機関投資家が「株主」として投資先企業を深く理解すると共に、目的を共有するためのプロセスを投資家が自ら構築する(企業に対して働きかける)ことが求められています。
一方で、企業側は現在検討が進められている「コーポレートガバナンス・コード」にもあるように、「企業価値を高めるようなコーポレートガバナンス体制」が求められています。
そして「ROEを重視した経営」や「対話(エンゲージメント)」などをキーワードに、“機関投資家”と“企業”との間を取り持ち、両者が協調することによって持続的な成長へと導こうとしているのが「伊藤レポート」であり、このような動きの中で、今後はさらに投資家と企業の建設的かつ緊張感のある関係構築を促進させていくことが期待されます。

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