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コラム

企業と投資家の建設的な対話
1)伊藤レポート「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」とは

2014/11/19

野村インベスター・リレーションズ
シニアコンサルタント 田島 健

2012年12月の安倍内閣発足と前後して、上場企業の価値向上と持続的成長をテーマとした議論が相次いで持ち上がりました。それに伴って「企業と投資家の建設的な対話」を促進する取り組みが進められており、今後IRのあり方にも大きく影響することが予想されます。

この取り組みについては、大きく2つに分けられます。
一つは、安倍内閣第3の矢となる「日本再興戦略」における金融庁主導の動きです。2014年2月に、「日本版スチュワードシップ・コード」が策定され、同年6月からは「日本版コーポレートガバナンス・コード」の策定が始まっています。
もう一つは経済産業省からの動きで、2012年7月に設立された経営イノベーション・事業化促進施策の一環としての、「企業ラボ」です。その目的は「企業と投資家が企業価値向上に向けた対話や開示の在り方を 検討・調査・提案する場」です。企業ラボは一橋大学院商学研究科教授伊藤邦雄氏を座長に、特別プロジェクト「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」を発足しました。プロジェクトの最終報告として2014年8月に発表されたのが「伊藤レポート」です。

企業と投資家の対話促進の目指すもの

【企業と投資家の建設的な対話】連載の第1回目となる今回は、この「伊藤レポート」についてご紹介します。

伊藤レポートのポイント

伊藤レポート本編は100ページに及びます。これを20ページの要旨にまとめ、さらに1ページの要約が発表されています。ここでは、全体を理解するポイントとなる点をご紹介しましょう。

1.国際的な議論と日本の課題

レポートでは、日本経済を継続的に成長軌道に乗せていくため、ミクロ企業レベルでの競争力を強化し、その収益力(稼ぐ力)を高めていくことが急務としています。同時に国際的な議論やスタンダードをそのまま取り入れるのではなく、日本の文脈で検討した上で海外の機関投資家との積極的な対話を通じて、日本市場の魅力を適切に発信することが必要としています。

企業と投資家の対話促進の目指すもの

こうした方針のもと、以下3つの分科会が設置され、議論が進められました。

― 第一分科会「企業価値創造の実態分科会」
― 第二分科会「投資コミュニティ分科会」
― 第三分科会「ショートターミズムと開示分科会」

2.求められる協創

レポートの主旨は「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」です。
企業と投資家双方の「協創(協調)」により企業価値を向上させ、持続的成長を実現することを提言しています。法的な強制ではなく、提言としてお互いのことを理解する情報提供とスキルアップを双方に求めています。

企業と投資家双方の「協創(協調)」

持続的成長はどういうことか。そのモデルとして取り上げられているのが、次の4点です。これは、過去20年間の株式のリターンがプラスとなった企業約200社の共通項を分析したものです。ここに日本的経営の成功例と、「世界でもっともイノベーティブな国、あるいはイノベーション創出能力を持つ有力な国の一つ」という評判の源泉が見られます。

過去20年の株式のリターンがプラスとなった企業約200社の共通項
(1)他社との差別化で顧客に価値を提供して価格決定力を持っている
(2)自社の存在が不可欠となるポジショニングと事業ポートフォリオ最適化を徹底している
(3)オープンイノベーション等他社との連携も視野に入れた継続的なイノベーションを行っている
(4)変化を恐れず、時代や自社に合った経営革新に合理的、積極的に取り組んでいる

※ データが継続して得られる上場企業1600社のうち、配当込みの株価上昇率

3.求められる日本型ROE経営

レポートでは明確な数値目標が掲げられました。それがROE8%を達成することです。この目標数値にコミットし、持続的成長につなげていくことが重要とされています。日本企業のROEは世界の平均像に比べて低く、これが企業評価の高まらない原因の一つとされてきました。その国際比較と要因を分析したのもレポートの注目点の一つです。従来言われてきたレバレッジではなく、ROEが低い要因は事業の収益力の低さによるところが大きいとわかりました。これを引き上げていくことが日本型ROE経営に繋がります。

日米欧の資本生産性分解

ROE8%を目標とする上で資本コストを根拠としたこともレポートの注目点です。調査により、日本株に期待する資本コストが7%以上であることがわかり、そこからROEの目標値8%が導き出されました。

日本株に期待する資本コストは7%以上

4.企業と投資家による「対話先進国」へ

従来の対話を一歩も二歩も進めた、企業と投資家による建設的で質の高い対話、目的ある対話を「エンゲージメント」と掲げています。「対話先進国」を目指すには、従来のIRミーティング以上に「双方向」であることが重視されます。
そして、中長期的な視点から対話を深めるには、非財務情報も含む中長期的な情報開示が求められます。同時に四半期情報への過剰な反応など行き過ぎた短期志向も是正されるべきとされています。こうした視点に立ち、対話の糸口となる中期経営計画で公表が望ましい経営数値として10項目が挙げられました。満足に公表されている例は少なく、もっとも要望の大きいROEを始め、まだまだ課題が多い状態です。

中期経営計画で公表が望ましい数値

<伊藤レポートの要約>
以下の経済産業省のニュースリリースには、1ページにまとめられた伊藤レポートの要約が掲載されています。

・経済産業省ニュースリリース
『伊藤レポート「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト「最終報告書」を公表します』
http://www.meti.go.jp/press/2014/08/20140806002/20140806002.html

その後の動き

伊藤レポートを受け継ぐ形で、「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」が2014年9月に発足しました。持続的な企業価値の創造に向けた企業と投資家との対話を促進する観点から、望ましい株主総会及び企業情報開示のあり方について検討していく場となります。

「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」と分科会の位置づけ

持続的成長に向けた企業と投資家の「対話」の構図

このように、伊藤レポートを起点として今後様々な議論が進められていく予定です。
企業には資本コストや企業価値向上を意識した経営が、投資家には中長期的な視点による評価が求められるなど、「企業と投資家の建設的な対話」に関する動きは今後も加速していくことが期待されます。

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